継ぎ研究室

家族信託という選択——邸宅を百年継ぐ資産承継術

公開2026.07.20 更新2026.07.20
家族信託という選択——邸宅を百年継ぐ資産承継術

邸宅という資産は、単に評価額だけでは語れない価値を持っています。そこに宿る家族の記憶、住まいとしての機能、そして次世代への想い。それらを確実に、かつ想い通りに継ぐための手法として、いま家族信託への関心が高まっています。

家族信託とは何か——邸宅承継における新しい選択肢

家族信託とは、財産の所有者があらかじめ信頼できる家族に管理・処分を託し、将来の受益者を指定しておく仕組みです。邸宅のように継続的な維持管理が求められる資産にとって、この制度は極めて有効な選択肢となります。

従来の相続では、所有者が亡くなった時点でしか資産の承継が行われませんでした。しかし家族信託では、所有者の生前から管理権限を移すことができるため、判断能力の低下や急な入院といった事態にも柔軟に対応できます。邸宅という『住み継ぐ』資産にこそ、この生前からの設計が意味を持つのです。

認知症リスクと空き家化を防ぐ——信託が担う住まいの管理機能

邸宅の承継において最も懸念されるのが、所有者の判断能力が低下した場合の資産凍結です。認知症などにより意思能力が失われると、不動産の売却や修繕契約、賃貸借契約の締結が事実上不可能になります。結果として、手入れの行き届かない邸宅が徐々に劣化し、資産価値を損なう事態も少なくありません。

家族信託を組成しておけば、受託者となった家族が継続して管理・修繕・賃貸活用の判断を行うことができます。これにより、所有者の意思能力にかかわらず、邸宅の維持管理は途切れることなく続けられます。

特に築年数を重ねた邸宅は、定期的な手入れと迅速な意思決定が資産価値を左右します。空き家化という最悪の事態を未然に防ぐためにも、信託という管理機能の導入は、百年先を見据えた承継設計の要と言えるでしょう。

遺言・法定相続との違い——邸宅を『想い』通りに継ぐための設計

遺言による承継は、所有者の死後に効力を発揮するものであり、生前の管理や意思決定には関与できません。また法定相続では、相続人全員の合意が必要となる場面が多く、邸宅のように分割が難しい資産では、共有状態が長期化し、結果的に売却や活用が滞る事例も見受けられます。

家族信託の特徴は、こうした課題を生前設計によって解消できる点にあります。誰に管理を託し、誰を受益者とし、将来的にどのような形で邸宅を継がせたいか——これらを所有者自身の想いに沿って、あらかじめ細やかに設計することが可能です。

さらに、二次相続以降の承継先まで指定できる『受益者連続型信託』という形式もあります。これにより、邸宅を配偶者、子、孫へと、世代を超えて想い通りに継いでいく道筋を描くことができるのです。

邸宅特有の課題——維持管理・修繕・賃貸活用と信託設計

邸宅は一般の住宅と異なり、庭園や意匠性の高い建具、伝統工法による構造など、維持管理に専門的な判断を要する要素を多く含みます。信託を設計する際には、こうした邸宅固有の特性を踏まえ、修繕や改修に関する権限の範囲、資金の確保方法までを具体的に取り決めておくことが望まれます。

また、将来的に賃貸活用や部分的な用途変更を検討する可能性がある場合、受託者にどこまでの裁量を与えるかも重要な論点です。信託契約の設計段階で、住まいとしての将来像を家族間で共有しておくことが、後々の判断の齟齬を防ぐことにつながります。

継ぎ研究室からの視点——法務と住まいづくりが交わる場所

私たち継ぎ研究室では、邸宅の承継を単なる法務手続きとしてではなく、住まいそのものの未来を設計する営みとして捉えています。家族信託の組成には、司法書士や税理士といった専門家との連携が不可欠ですが、その先にある『どのような住まいとして継いでいくか』という視点もまた、承継設計には欠かせません。

邸宅の構造や設備の状態、将来的な改修の可能性を踏まえた上で信託契約を設計することで、法務と住まいづくりの両面から、百年先まで見据えた承継の姿を描くことができると私たちは考えています。

よくあるご質問

家族信託は邸宅のような高額な不動産にも利用できますか。

利用可能です。むしろ邸宅のように継続的な管理や修繕判断が必要な資産こそ、家族信託の柔軟な仕組みが有効に機能する場面が多いといえます。

家族信託を始めるタイミングはいつが適していますか。

所有者の判断能力が十分にあるうちに検討を始めることが望ましいとされています。認知症等により意思能力が低下すると、信託契約自体を結ぶことが難しくなるためです。

家族信託を組成すれば、遺言や成年後見は不要になりますか。

必ずしもそうとは限りません。信託でカバーしきれない財産や事項については、遺言や他の制度と組み合わせて設計することが一般的とされています。専門家との相談の上、総合的な承継計画を検討することをお勧めします。

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