継ぎ研究室

名義という壁——共有名義・借地権が阻む住み継ぎの実務知

公開2026.07.17 更新2026.07.17
名義という壁——共有名義・借地権が阻む住み継ぎの実務知

百年先まで住み継ぐ家を思い描くとき、意外な障壁として立ちはだかるのが「名義」の問題です。共有名義の相続、借地権付き邸宅の権利関係——これらは設計や工事の前に、まず整理しておくべき実務の要諦です。

共有名義の家はなぜ揉めるのか——住み継ぐ前に潜む落とし穴

相続によって兄弟姉妹が共有名義で家を引き継ぐケースは、決して珍しくありません。しかし共有名義とは、法的には「全員の合意なしには自由にできない状態」を意味します。リノベーションという大規模な変更を加えようとした瞬間、この事実が重くのしかかってきます。

たとえば共有者の一人が売却を望み、もう一人が住み継ぎたいと願う。あるいは共有者が海外に居住しており、意思確認そのものに時間を要する。こうした状況では、どれほど優れた住み継ぎの構想があっても、着手する以前の段階で頓挫してしまいます。私たちが数多くの相談を受けるなかで痛感するのは、家族の思いがすれ違う前に、名義という土台を見直す必要があるという事実です。

借地権付き邸宅を次世代へ——地主交渉と権利整理の要諦

都心の趣ある邸宅には、借地権という形態で成り立っているものが少なくありません。土地は地主のもの、建物だけが自分たちのものという関係は、長年にわたり穏やかに継続してきた歴史の証でもあります。しかし世代交代の局面では、この関係性そのものが問い直されることになります。

大規模なリノベーションを行う際には、地主の承諾が前提となる場合がほとんどです。増改築禁止の特約が付されていることもあれば、承諾料の支払いが慣行として存在することもあります。地主との関係が良好であればあるほど、事前の対話が円滑に進みますが、代替わりによって関係性が希薄になっているケースも見受けられます。住み継ぎを構想する段階から、地主との対話を丁寧に積み重ねておくことが、後の実務を大きく左右します。

名義整理から始める住み継ぎ設計——家族信託という選択肢

共有名義や借地権という壁を前にしたとき、有効な選択肢の一つとして挙げられるのが家族信託です。これは財産の所有者が、信頼できる家族に管理や処分の権限を託す仕組みであり、認知症などによる判断能力の低下に備える手段としても注目されています。

家族信託を活用すれば、名義上の所有権は残しつつも、実質的な管理権限を一人に集約することが可能になります。これにより、リノベーションの意思決定を迅速に行える体制が整います。ただし家族信託の設計には、税務や法務の専門的な知見が欠かせません。私たちは司法書士や税理士といった専門家との連携を通じて、住み継ぎという目的に沿った権利整理の形を模索する姿勢を大切にしています。

住み継ぎを実現するための対話の設計

名義や権利の整理は、書類上の手続きにとどまらず、家族間の対話そのものを設計する営みでもあります。共有者全員が同じ未来像を描けているか、地主との信頼関係が次世代にも引き継がれているか——これらを丁寧に確認する過程こそが、住み継ぎの実務における最初の一歩です。

私たち継ぎ研究室では、設計の相談をいただく段階で、こうした権利関係の状況についても率直に伺うようにしています。名義の複雑さは、決して恥ずべきことではなく、むしろ多くの家庭が直面する現実です。早い段階でその現実に向き合うことが、結果として住み継ぎの実現を確かなものにしていきます。

よくあるご質問

共有名義のままリノベーションを進めることはできますか。

共有者全員の同意が得られれば可能です。ただし工事内容によっては全員の合意形成に時間を要するため、事前に共有者間で方向性を話し合い、必要であれば名義の整理を検討することをお勧めしています。

借地権付きの家をリノベーションする際、地主への確認は必須ですか。

借地契約の内容によりますが、増改築を制限する特約が付されている場合は地主の承諾が前提となります。契約書の内容を確認し、早めに対話の機会を持つことが望ましいと考えています。

家族信託はどのようなタイミングで検討すべきですか。

判断能力が十分にあるうちに検討を始めることが理想です。将来の住み継ぎを見据え、司法書士や税理士など専門家に相談しながら、家族の状況に合った仕組みを設計していくことをお勧めします。

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