継ぎ研究室

家族の記憶を宿す住まい——飾るから継ぐ住空間へ

公開2026.07.11 更新2026.07.11
家族の記憶を宿す住まい——飾るから継ぐ住空間へ

引き出しの奥にしまわれたアルバム、箱に眠る形見の品。多くの住まいで、家族の記憶は「収納」という名のもとに姿を消していきます。継ぎ研究室では、思い出を飾るのではなく、暮らしの中に織り込み、次世代へと継いでいく住空間のあり方を探ります。

なぜ「思い出の品」は収納されるだけで終わるのか

祖父母から受け継いだ器、両親が大切にしていた写真、家族旅行の記念品——多くの家庭には、金銭には代えがたい価値を持つ品々が存在します。しかし、それらの多くは押し入れの奥や納戸の中に仕舞われ、日の目を見ることなく時間だけが過ぎていきます。

理由は単純です。既存の住まいの多くは、収納を「隠す場所」として設計されており、記憶の品を「見せる場所」として想定していないからです。結果として、大切な品ほど存在を忘れられ、やがて次の世代がその価値を知らぬまま処分してしまうという事態が起こり得ます。

私たちが住み継ぐという発想に立つとき、まず問い直すべきは収納の量ではなく、記憶をどう暮らしの中に位置づけるかという設計思想そのものです。

記憶を空間化する——ディスプレイ設計という考え方

継ぐ住まいにおいて重要になるのが、思い出の品を「収める」対象から「暮らしに参加させる」対象へと転換する視点です。これをディスプレイ設計と呼びます。単なる飾り棚の設置ではなく、光の入り方、動線上の視線、素材との調和までを含めて検討する、空間全体の構成です。

たとえば階段の踊り場に写真を配するのであれば、日常的に家族が行き交う場所であることを踏まえ、光が強すぎず、湿気がこもらない位置を選ぶ必要があります。調度品を飾る棚を設けるのであれば、その素材や奥行きは、品そのものの佇まいを引き立てるように検討されるべきでしょう。

こうした配慮は、単に「見栄えの良い空間」をつくることが目的ではありません。日々の暮らしの中で自然と目に入り、家族の会話のきっかけとなるような、記憶と生活が地続きになる関係性をつくることこそが本質です。

素材と光が記憶を引き立てる——継承のための設計的配慮

古い写真や紙資料は紫外線や湿度に弱く、無造作に飾ると劣化を早めてしまいます。一方で、完全に密閉して保管してしまえば、それは結局「収納」の延長に過ぎません。継承を前提とした住まいでは、この二つの要求のバランスを取ることが求められます。

具体的には、直射日光を避けた間接照明の計画、調湿性のある自然素材を用いた棚や造作、そして額装や什器の選定において劣化を抑える工夫を組み合わせることが考えられます。こうした配慮は、リノベーションの計画段階から織り込んでおくことで、後から追加するよりも自然な形で空間に溶け込みます。

記憶を継ぐということは、感傷的な行為ではなく、住まいの物理的な環境づくりという、きわめて実務的な側面を持つのだと私たちは考えています。

次世代が誇りを持てる「物語のある家」のつくり方

住まいを継ぐ次世代にとって、家族の歴史が刻まれた住まいは、単なる資産以上の意味を持ちます。それは、自分がどこから来たのかを静かに語りかける存在であり、誇りの源泉となり得るものです。

そのためには、思い出の品を一方的に「良いもの」として押し付けるのではなく、次世代が自らその物語に触れ、意味を見出せる余地を残すことが大切です。すべてを説明し尽くすのではなく、問いかけの余白を持った空間こそが、長く愛される住まいになるのではないでしょうか。

私たちは、住まいの継承を単なる相続の手続きとしてではなく、家族の物語を次の世代が自分の言葉で語り直せるようにする、静かな仕掛けづくりだと捉えています。

百年住宅への道——記憶を重ねていく暮らし方

『いまある家を、百年へ』という私たちの考え方において、記憶の継承は欠かせない要素です。住まいは一度完成すれば終わりではなく、そこに暮らす家族が新たな思い出を重ねていくことで、少しずつ深みを増していく存在だからです。

リノベーションのタイミングは、過去の記憶を見つめ直し、次にどう継いでいくかを考える好機でもあります。既存の間取りや構造を活かしながら、記憶を宿す場所を新たに設けることは、家そのものの価値を、時間の経過とともに高めていく営みだと言えるでしょう。

住み継ぐ家とは、完成された作品ではなく、世代を超えて書き加えられていく物語のようなものです。継ぎ研究室では、その物語の書き出しを、住まい手とともに丁寧に考えていきたいと考えています。

よくあるご質問

古い写真や調度品を飾ると、劣化が心配です。どのように対策すればよいですか。

紫外線を避けた照明計画や、調湿性を持つ自然素材の造作、劣化を抑える額装の工夫などを組み合わせることで、見せながら守るという両立が可能になります。素材選定と配置は計画段階から検討することが望ましいと考えられます。

思い出の品が多すぎて、何を残すべきか迷っています。

すべてを一度に飾る必要はありません。まずは家族にとって物語性の強い品を数点選び、暮らしの動線上に無理なく配置することから始める考え方もございます。残りは時間をかけて少しずつ見直していくのも一つの方法です。

次世代がまだ小さく、家の歴史に関心を持つか分かりません。誰のために設計すればよいのでしょうか。

現時点での関心の有無にかかわらず、記憶に触れられる場所を住まいの中に用意しておくこと自体に意味があると私たちは考えています。成長した後、ふとした瞬間にその存在に気づき、意味を見出す余白を残しておくことが大切です。

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